Scrapbook
of Our
Explorers
バッグやテント、グローブなどのアクセサリーまで、アパレルとシューズ以外のプロダクトを扱うハードグッズ事業部。デザイナーの田嶌は、The North Faceチームに配属されてから始めたトレイルランニングがいつしかライフワークとなり、その経験を存分に仕事で活かしている。
Work Scope1
仕事と趣味を線引きしない。
理想を具現化するデザイナーの仕事
トレイルランが趣味の田嶌は、所作に無駄がなくランナーのムードが漂う。PCやタブレットでデザインし、生地からファスナー、バックルなどのパーツまで、機能性や耐久性などを考慮しながら素材を選んでいく。「フィッティングに大きく影響するショルダーハーネスなどは、展開図を紙にプリントアウトして検証することも。サンプルが上がってきたら修正点を検討し、海外の工場や富山のチームと協力しつつサンプルの完成度を高めていきます」。通勤バッグは自身がデザインしたサンプルをテストとして使うのがお決まり。「日常使いすることで、見えてくるものもあります。電車に乗る時も走っている時も、結果、24時間デザインのことを考えていますね(笑)」。そんな田嶌が大切にしているのは、“正しいよりも楽しく”という恩師からの言葉。「正しさは状況によって変わりますが、楽しいのはそれだけで価値のあること。自分が軸となり、まわりを巻き込んで楽しい雰囲気を作れる人間でありたいですね」
製作するプロダクトに合わせて、素材の質感や機能性を吟味。細かな修正を重ねてプロダクトができあがる。
Work Scope2
つい声をかけたくなる、
デザイナーとしての喜びとやりがい
小さな使いにくさが大きなストレスに繋がるパフォーマンスアイテムは、担当者たちがあらゆるシーンやユーザーを想定しながら何度もプロトタイプ(試作品)を作り、改良を重ねたうえでリリースされる。「レース支度の一連の流れを試してみて、ポケットへのアクセスなどを検証します」。スムーズな手さばきで必需品をポケットに詰めていく姿は、実際のトレイルランレースさながら。前職は家電デザイナーだった田嶌にとって、自身が手がけたプロダクトを街中で見かけることがやりがいに繋がるのだとか。「新卒でデザイナーとしての仕事を始めた頃から変わらず、自分が手がけた商品を使ってくださっている方を見ると、やっぱり嬉しいです。さすがに家電だと、誰かが使っているところを見る機会ってなかなかないじゃないですか。でも今は、私がデザインしたバッグなどを持っている人を見かけると、嬉しくてつい声をかけたくなってしまいます。かけないですけどね(笑)」
実際のトレイルランレースを想定した荷物をサンプルに入れて検証。使用の工程で引っかかりなど違和感がないかを入念にチェック。
Work Scope3
アスリートを陰ながら支える
ギアデザイナーという天職
日常使いでテストをするプロダクトもあれば、実際に山などの自然に出向きフィールドテストを行うプロダクトもある。ゼロからデザイン・開発に携わったランニングベスト〈HST Fume 6〉のフィールドテストでは、阿蘇の山をアスリートとともに駆け抜けた。「トレイルランのプロにフィードバックをもらいつつ、私自身の経験も活かしながら進めました。アスリートの方と密にコミュニケーションを取り、一緒に開発できたことはとても印象的でした」。細部へこだわりを詰め込み、何度も改良を重ねるなど、紆余曲折を経てプロダクトが完成した時は喜びもひとしお。「何度も修正を繰り返した末に、トップアスリートのみなさんに使ってもらって、“これ、めっちゃいいよ!”と言ってもらえたのが本当に嬉しかった。彼らの背中に、自分がデザインしたギアが輝く光景を見て、何てやりがいのある仕事なんだと感じましたね」
トレイルランのアスリートとともに行った阿蘇でのフィールドテスト。一緒に走りフィードバックをもらいます。
Personal Life1
美しい景色、おいしいグルメ。
仲間と楽しめる豊かなライフワーク
トレイルランについて目を輝かせて語る田嶌が、今年いちばん楽しみにしているのが、フランス・シャモニーで行われるUTMB 100マイルレース。「これに参加するため、前哨戦にあたる韓国・チェジュ島とタイのレースを完走しエントリー権を獲得、その後の抽選も当選して無事に参加できることになりました」。トレイルランを始めたのは、実はThe North Faceのチームに加わってからだそう。「友人に誘われた登山をきっかけにトレイルランに出会いました。初めは山を走るなんて理解できなかったのですが(笑)、すっかりはまって7年ほど続けています」。春はトレイルラン、冬はマラソンと、年間10回程度のレースに出場し、国内外問わずランニングの旅を楽しんでいる。「行ったことのない場所へ行き、走りながら美しい景色を見て、フィニッシュ後に仲間と一緒においしいものを食べてビールを飲んで。こんなに豊かなことは他になく、私の人生のモチベーションです」
韓国・チェジュ島でのレースを同僚の吉村とフィニッシュ。レースのあとはローカルフードを堪能。
Personal Life2
交友関係も広がっていく。
ランニングが日々進化し続けるヒントに
田嶌は社内でも交友関係が広いことで有名。退勤後や週末には、皇居周辺を拠点にするランニンググループに参加したり、神保町の階段でトレラン仲間とのトレーニング、代々木公園のトラックで練習したりと、走ることが生活の軸に。「いろんな職種や年齢の仲間がいるので、いい刺激になっています。何より、汗をかいたあとのビールは最高なんです!」。ストイックに走るだけではなく、仲間と過ごす時間もめいっぱい楽しんでいる。仕事と趣味を自在に行き来する田嶌にとってランニングの魅力は、「走り続けていて面白いなと思うことは“新しい自分との出会い”です。例えば、すごく辛い時間帯に『自分ってこういう状況だとこんな気持ちになるんだ』とか、どんなに疲れ切っていても、誰かに応援されると動けるんだとか、その時々で走るモチベーションがちょっとずつ変わるんです。そうやって新しい自分の一面を発見することができますし、これからも変化を楽しみたいですね」
ランニングチームでの練習のひとコマ。退勤後に皇居あたりを走る。走ったあとのビールも欠かせない。
MY TNF PRODUCT
HST Fume 6
「サンプルは全部、残しているんですよ」と、宝物のように10以上のプロトタイプを見せてくれた〈HST Fume 6〉は、田嶌が最も思い入れのあるプロジェクト。世界のトップアスリートとともに開発するThe North Faceの最高峰ライン「サミット シリーズ」ということもあり、「中途半端なものは作れないというプレッシャーがありました。自分の経験を鑑みたり、アスリートたちとのコミュニケーションを重ねたりなど、苦労と思い出が詰まったアイテムです」。フィールドテストにはトレイルランナーの土井陵氏、森本幸司氏、鬼塚智徳氏の協力も。「実際に彼らに使ってもらい、フィードバックを受けて修正を重ねました。アスリートと一緒に開発することができたのは、デザイナー冥利に尽きる経験でした」