福岡県柳川市出身の吉岡さんは、幼い頃から冒険心が強く、大雨が降っていても常に外に出て遊んでいるような子どもだったという。その影響もあってか、高校を卒業後はすぐに上京し、鉄道会社の乗務員として勤務。毎日富士山を車窓から眺める生活を送っていたが、後に転職した先で出会ったお客さんたちの姿に影響を受け、それがきっかけでTHE NORTH FACEへの転職を決意する。

　「当時働いていたお店には、アウトドアを楽しむかっこいい大人たちがたくさん来ていたんです。サーフィンやツーリング、山登りをしている人たちを見て、アウトドアに対しての興味を募らせていました。3年ほど働いたタイミングで、家族の事情で福岡に戻ることになったときに、よく行っていたTHE NORTH FACEへの転職を決めました」

　4年間THE NORTH FACE 福岡店で勤務した後、今年の4月から九州の玄関口と言われる博多駅近くの複合商業施設キャナルシティ博多内の店舗で店長を勤めている。そんな吉岡さんが旅を探求するきっかけとなったのが、入社から半年後に友人と朝日を見に大船山を登ったときのことだった。

　「山頂から朝日を見たらきっと綺麗だなって感じると思っていたんです。でも、太陽が出てきた瞬間に、地球の大きさや、自分のちっぽけさに気付いて、いい意味で怖さを感じました。自分の想像を超えた経験をしたときに、『自分の感情が動くのは、どんな条件が揃ったときなんだろう』と興味が湧き始め、旅を通してその条件を見つけていきたいなって思ったんです。新しいものに触れることで、自分の好き嫌いが分かっていくし、そうすることで幸せだなと思う瞬間を増やしていけると思っています」

　吉岡さんにとって旅とは、自分のことを理解していくプロセスなのだ。また、「自分の条件」を知っていくことは、「おのずと他者理解にも繋がる」のだという。

　「自分に条件があるように、みんなにも感情が動く条件がそれぞれあるんです。自分の持つ条件に沿って、買うものや行く場所を選択していると思っていて。そう考えると、その人の選択全てが愛おしく思えてくるんです。そうやって少しずつ人に優しくなれた気がします」

　吉岡さんの感情が動く条件は、壮大な景色を見たときだけではない。辛いと思う瞬間、達成感を得た瞬間、相手に喜んでもらった瞬間などもそうだ。彼は旅を通して、自分の感情が動く瞬間を丁寧にすくい続けてきたことで、「人の感情が動く瞬間にも敏感になれている」と話す。そしてそれは接客にも繋がっているという。

　「接客の際に、お客様の感情が少しでも動く条件を探しながら、提案してサポートできるかはとても大切です。それはオンラインではなく、リアルな場だからこそできることでもあります。また、旅をしてきたことで、人が何か新しいことに挑戦しようとしたときに、応援したいという気持ちが高まってきたんです。いくつになっても新しいことをやるって、勇気がいるし、恥ずかしいと思ってしまう。だけど僕は個人としても、店舗としても、そういった人たちを応援し続けていきたいなって思っています。僕自身も新しい場所、人、ものと出会ったときに、新たな自分と出会えているし、それがとてもワクワクするので。だから私の探求は、Never Stop Travelingです」