東京都心から電車でわずか1時間ほど。東海自然歩道の東の起点であり、標高599mの低山ながら豊かな自然に恵まれ、多くの人々に愛され続けている高尾山。
一年を通じて訪れる人は年間260万人を超えるとも言われ、国内外から観光客、登山者、トレイルランナーまで、多彩な利用者が集う。

そんな高尾山の自然を守り、未来へとつなぐために活動している団体が「高尾サポートレンジャー会」だ。
「高尾サポートレンジャー会は、高尾山とその周辺の自然公園を守っている東京都の自然保護指導員、通称“東京都レンジャー”の業務を補佐しているボランティア団体です」
そう話してくれたのは会長の川原田稔さん。登山に親しみ、自身の身近なフィールドである高尾山の豊かな自然と、地域に根付く深い歴史や文化に魅了され、訪れる人に楽しい思い出を持ち帰ってもらいたいという思いで活動を続けているという。
高尾サポートレンジャー会の活動は、高尾・陣場地区自然公園のルールやマナーのPR、登山者への自然解説やルート案内、登山道や案内板の点検・簡易補修、公園利用者数などの調査など多岐に渡る。
高尾山を訪れる誰もが安心して自然を楽しめるように、そして自然そのものが持続可能な形で保全されるように、巡回と地道な作業を積み重ねているのだ。


この日の集合場所は高尾山麓の清滝駅。参加者は班に分かれ、6号路や5号路にかかる木橋の点検と清掃を行った。
橋に堆積した泥や落ち葉は、雨の日や雨上がりに滑りやすさを引き起こし、転倒の危険につながる。また、湿気をため込み、木材の劣化を早めてしまうこともあるそうだ。木橋の呼吸を妨げないように、定期的に泥を落とすことが重要だということがよくわかる。

「年間260万人以上が訪れる高尾山はオーバーユース状態と言える場所です。登山道が踏み固められることで浸食が進み、木の根が露出して歩きにくくなることもあります。そうした状況では利用者が別のルートを歩き始め、新たな浸食を生む悪循環につながります。だからこそ自然の状態をよく観察し、自然の理にかなった方法で保全を続けることが必要なんです」

この日の活動に参加したTHE NORTH FACEコクーンシティ コクーン2・店長の野本和寛さんは「トレイルランニングでよく高尾山に来ますが、この活動のおかげで快適に走れるのだと知り、ありがたさを実感しました」と話す。

高尾サポートレンジャー会の活動は巡回や登山道保全だけにとどまらない。環境省が行う「モニタリングサイト1000」にも参加し、植物や哺乳類の調査を継続実施しているという。
「植物調査では、登山道の一定区間を対象に観察を続け、開花や実りの状況を記録します。同じ場所を長年観察することで、咲き始めの時期の変化や、数年前までは多かった植物が減っていることなど、自然の変化に気づくことができます」

こうしたデータの積み重ねは、自然環境の変化を長期的に把握するための重要な財産になる。
普段は見過ごしてしまう小さな自然に目を向けることは、ハイカーにとってもフィールドの理解へとつながることを教えてくれた。
そして、何気なく利用している橋の泥や登山道の段差といった細部の積み重ねが、安全で快適な山歩きにつながっている。そして、その背景には地道な努力を続ける人々がいることをあらためて知る機会になった。
自然を楽しむだけでなく、自然を守ることへ少しでも意識を向ける。その小さな一歩が、次世代へとつながる大きな力になるのだろう。






