
水の音に
包まれながら、
東海自然歩道を歩く
「京都にこんな場所があったんですね」
歩き出してすぐ、清滝川のせせらぎが寄り添う道で小野塚さんが口にした言葉は、驚きのひとことだった。
1/100ハイク・京都セクションの起点は京都市北部の高雄。空海ゆかりの神護寺をはじめ、西明寺、高山寺といった名刹が山懐に建ち、夏は新緑と川の涼を求める人々で賑わう避暑地として京都の人に愛され、秋には燃えるような紅葉で彩られる地だ。
清滝川に沿って嵐山へと導く東海自然歩道は、「京都一周トレイル」の一部にも重なり、自然の美しさと文化の薫りを一度に味わえる、京都らしさが凝縮された道となっている。
案内役は、ハイカーの清田勝さん。大阪・箕面セクションに続いて一緒に歩いてくれた。
「水が豊かな京都らしさを感じてもらえるよう、川沿いのルートを選びました。僕も何度も歩いた道ですが、初心者の方にもやさしく、『ハイキングをしに来た』という気持ちに自然とさせてくれるルートだと思います」
高雄の集落を抜け、高雄橋を渡ると、清滝川に沿うようにトレイルが延びている。京都市北部を流れる清滝川流域のうち、高雄から清滝までの区間は「錦雲渓」と呼ばれる渓谷。四季折々の自然美を楽しめるだけでなく、トレイル上にはベンチやテーブルが設置された広場もあり、ハイキングを楽しくしてくれるルートだ。
澄んだ川の流れと緑が織りなす風景は、古くから人々を魅了してきた。水音に包まれながら歩けば、暑い日でも心が涼やかになる。 「川の水の美しさに驚きました。流れの音が心を静かにしてくれるんです。長い時間を歩くと“無”になれる瞬間がありますが、水辺を歩くとその感覚がいっそう深まるように思います」。小野塚さんはそう語る。
やがて六丁峠を越えると、鳥居本の集落が現れる。茅葺きの屋根の家々が並ぶ町並みは、嵯峨鳥居本伝統的建造物群保存地区として守られている。自然の中から人の営みの地へと移り変わる、風景のグラデーションを歩きながら感じるのは、格別の時間だ。
自然と人の
営みがつながる、
嵐山への道
鳥居本を過ぎると観光客の姿が増え、嵐山が近づいていることを知る。竹林の小径を渡る風の音、世界遺産・天龍寺の静けさ、渡月橋の堂々たる姿——京都を代表する景色が次々と現れるのも、このルートならではの魅力だ。


「川沿いで起伏も少なく、心地よく自然を感じられるルートですね。嵐山からさらに京都市街地までは直線で10kmほど。街の中心からもすぐに来られて、気軽に自然を楽しめる場所だと思います」。
清田さんの言葉どおり、高雄から嵐山のセクションは、ハイキングの喜びとともに、人の手が紡いできた歴史や文化も味わえる構成になっている。

「観光地としての京都しか知らなかったのですが、歩くことで新しい京都を知ることができました」と小野塚さん。1974年の開通以来、東海自然歩道は自然と人とをつなぎ、土地の魅力を再発見させてくれる道であり続けている。京都の山あいを抜け嵐山へと至る今回のハイキングは、新たな京都の姿と、その豊かさに触れる旅でもあった。

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