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Mt.FUJI 100 2025

ランナーたちの言葉から

世界12のレースからなる『Gran Canaria World Trail Majors』のうちの一つ、『Mt.FUJI 100』が2025年4月25日(金)から27日(日)にかけて開催された。第11回を迎えたこの大会に、過去最多の約3,800人のランナーが34の国や地域から参加した。日本最大級、そしてアジアや世界でも注目を集める大会に参加したランナーたちの言葉を通して、トレイルランニングの楽しみを探る。

2025年の『Mt.FUJ I100』では、これまでの「FUJI100mi」「KAI70k」にショートディスタンスの「ASUMI40k」が新たに加わった。幅広いランナーが、長い距離からショートまで、自分の好きなカテゴリーを選んで走ることができるようになった。

岩井絵美(THE NORTH FACE、日本)は、シーズンインのレースのうちの一つとして「ASUMI40k」を走り、見事3位でゴールした。そして翌日の朝、リラックスした笑顔でこう語った。

走ること、知ること 「緊張感あるレースで自分の走りができたことが嬉しかったです。きつかったけれど、(「FUJI100mi」や「KAI70k」のルートを)”いいところどり”したコースで本当に楽しかった。急な降りもあまりないし、走る時間帯も昼間で安全で、楽しめるレースだと思いました。はじめてのレースとしてこのカテゴリーを選ぶのもおすすめです」

岩井は、「ASUMI40k」を経てショートからより長い距離まで、今年も多くのレースを走っていくという。と同時に、コーチングを通してコミュニティや多様なランナーと関わる日々を過ごしていく。その時に大事だなと思うのは——と続けた。

「ランナーの目線に自分が合わせていくということだと思います。自分がコーチングしているランナーの年齢やレベルは、本当に様々です。その時に大切にしているのは、自分の感覚だけではなくて、そのランナーの考えていることをよく知るということなんです。色々なランナーがいるのは楽しいです」

自分のことに加えて「誰か」のことを知ることで、走る楽しみは倍増していくのだ。

Being for each other 「生まれ育ったアラスカでも、今住んでいるサンフランシスコでも、沢山レースがありますよ。10キロから15キロ、長いものまで本当に色々と。誰もが気軽に自由に走ってます。それから、友達や家族、コミュニティと走ったり、一緒に楽しむことが多いです。お互いのことを考えてるんです——”Being for each other.”」

そう話すルビー・リンドクイスト(THE NORTH FACE、米)は、「KAI70k」で2位に輝いた。

レースの後半、二十曲峠に向かうタフなパートでのことだ。キツイと評判のセクションで、ルビーはダイナミックに身体を動かして進み、「このコースすごい!」と言いながらハイタッチをして進んでいった。レースで勝負をしながらも、そこにいる人たちと一緒に走る時間を楽しんでいる様子だった。

「みんなお互いにインスピレーションを与え合っている。ゆっくりかもしれないけれど、確実にそういうことは起こってると思います」

トレイルランニングの楽しさは、自分や誰かに循環していくものなのだ。

等身大の自分を知ること 2025年2月、スペインのカナリア諸島で開催された『Transgrancanaria』の会場で、「日本に来るのが楽しみです」と話していたサラ・キーズ(THE NORTH FACE、米)も「KAI70k」を走り、4位に入賞した。今回の来日でどんなことを感じたのだろうか。

「不完全なことでも、それを受け入れるといつしか美しいものに変化していくことがある——日本の”金継ぎ”を通してそういう考え方を知ることができました。今回のレースは、ベストコンディションではなかったことを自覚していて、難しいものになるとわかっていました。でもそれを受け入れながら走るということはどんなことか、それをこんな素晴らしい場所で、思い出すことができて本当に嬉しいです」

トップアスリートでも、そうでなくても、いつもレースや走ること自体がうまくいくとは限らない。それでも、それが自分であると思い直して素直になることができる。人は、走ることで等身大に戻り、あらためて自分を知ることができる。

そんなランナーたちの姿を見て、サポートし、応援する人たちがいる。その日その時にしか見ることのできない光景を、写真に、映像に、言葉に記録する人たちがいる。それを見て、自分も走ろうと思う未来のランナーたちがいる。私たちは不完全でも進んでいくことができるのだ。

新しい1日 初来日して「KAI70k」を走り、優勝を飾ったシェン・ジアシェン(THE NORTH FACE、中国)の言葉もまた印象的だった。ウェスタンステイツやUTMBシリーズを何度も走り、世界中を旅しているシェンは言う。

「スピードが出しやすいコースで、走り続けられました。今年のトレイルランニングシーズンのスタートとして、日本で走って、良い結果を出すことができて自信になりました」

最も険しいセクションである杓子山の手前で「シェンだけがそこを少し走っていた」とあるフォトグラファーは話した。見たことのないようなスタイルを知ることができるのも、レースの日の魅力だろう。

シェンは、とても朗らかに加えた。

「プロランナーとして、長い時間トレーニングをして、ようやく結果が出てきます。そんな日々に、今回の日本もそうですが、色々な場所にいくことで、その土地のランナーやレースを通して学ぶことは多いです。今年もウェスタンステイツ、UTMBと大きなレースに向けてまた走っていきたいですね」

「自然の中を走るだけ」のとてもシンプルなスポーツが、レースという「ハレの日」を通して多くのものを私たちにもたらす。そしてその「ハレの日」は、シェンの語るように、大きな、長い時間の中で新しい1日につながっていくものでもある。

ランニングは、過去から未来につながる長い時間の中で、人を謙虚に、魅力的にしてくれる。

変わること 林秀太(THE NORTH FACE Shere、店舗スタッフ)は、昨年の『Mt.FUJI 100』の開催前にこう言っていた。レースに持っていくアイテムについて話していた時のことだ(本サイト:『Mt.FUJI100 KAI70kの多様性、FUJI100miの彩り』参照)。


「ひとつだけいつもと違うものを持とうと思っているんです」と言う。

「携帯に4歳の娘の写真を入れていきます。何かあっても笑顔になれる。苦しい時のお守りです」


今年2025年の「FUJI100mi」でも、林は同じように娘の写真を準備した。少し成長して、笑っている写真だ。スタートラインに立つ林もまた、笑っていた。リラックスしてスタートの号砲を聞いて、走り始めた。

見事なレース展開だった。去年よりも速く、去年よりも安定して走り続けて、フィニッシュした。1年を通して少しずつ変わってきた林は、新しい世界を見ただろう——。

いいときも悪いときもある。それでも人は変わり、進んでいくことができる。走りながら、長い時間をかけて見たことのなかった場所に到達できる。

そこで、多様な人やコミュニティとつながり、私たちは人と人、人と環境/社会との関係性の中でさらに変わっていく。

それは人間らしい、とても感動的なことだ。

Photography by Makoto Nakamori, Masaou Yamaji, Kizuku Yoshida, Ryo Hirano, Ryo Kamijo and Doryu Takebe.